マイクロソフト
マイクロソフトは1975年、ビルゲイツがハーバード大学を中退して作った会社です。80年代初頭IBMのパソコンOSとして、マイクロソフトOSが採用され大きく飛躍しました。次の飛躍は90年代。ウィンドウズ95がパソコンOSとして市場を席巻。これによって、IT業界に巨大な影響力を持つマイクロソフト帝国が完成しました。ぼくがパソコンを始めたのもちょうどこの頃で、わけもわからず波に乗って95発売直前に3.1(95への無償バージョンアップ付き)を購入したことを覚えています。こうして消費者向けパソコンソフト市場を制覇したマイクロソフトは、次に企業システム市場に狙いを定めました。
企業分野、中でも金融機関の基幹システム分野は、IBMを中心とした大型汎用機メーカーがほぼ独占しています。大型汎用機メーカーは、汎用機登場以来の数十年間蓄積してきた膨大な量のプログラム資産をもとに、強大な影響力を発揮し、一方金融機関は高コストのシステム投資を強いられています。マイクロソフトはこうした独占市場に、パソコン市場で稼いだ潤沢な資金を元手に、チャレンジャーとして切り込んでいるわけです。汎用機メーカーは築き上げてきた製品の実績・信頼の高さが武器ですが、対するマイクロソフトは安さとパソコンで築き上げたシステム開発者層の多さが武器です。システム業界では「コスト」と「信頼性」がトレードオフというのが常識です。信頼性を第一に考える日本の金融機関は、マイクロソフト製品の安さが魅力的とはいえ、信頼性には懐疑的で採用に二の足を踏んでいるのが現状です。しかし、こうしたシステム業界の既成概念にとらわれず、周到に実験を繰り返し、他社に先駆けてマイクロソフト技術の大規模採用を決定している企業も出てきています。昨今の状況に、IT革命の進展に伴うシステム投資額の重圧にあえいでいる金融機関など多くの企業が注目しているのもひとつの流れなのです。
しかし、マイクロソフトの信頼性は懐疑的だと思います。システムは信頼性が第一です。システムが会社の発展だけでなく、トラブルによって破滅をも導く事実に誰もが不安を持っていると思います。ドッグイヤーと呼ばれるITの発展を的確に捉えて、迅速なシステム開発は必要かもしれませんが、迅速さを追求しすぎるあまりセキュリティーを甘くすることだけは避けるべきでしょう。ウィンドウズは使いやすいかもしれませんが、「UNIX」や「OS2」などに比べると、その不安定さやセキュリティーの弱さが目立ちます。ウィンドウズのおかげで個人レベルでのシステム意識が高まり、IT革命を起こしたことは評価すべきですが、逆に個人レベルでのセキュリティー意識を世界的に弱めてしまったことを置き去りにはできないと思います。80年代まではトラブルを起こさないこと、信頼を重視することはスピードよりも勝っていた時代でしたが、IT革命によってスピードを殺してしまう意識は悪徳とまでは言わないまでも、嫌われてしまいがちです。「スピードと品質」を両立すること、つまり品質を保つぎりぎりのバランスでスピードを上げてコストを下げるという難しい課題を、マイクロソフトの築き上げた、危機意識の欠落したIT基盤の上に成り立たせようとしています。マイクロソフトの弱点は明確です。使いやすさだけではなく、セキュリティの重要性を訴え、これを改善していかなければ企業分野への進出は難しいと思います。個人スキルの向上によって逆にセキュリティー意識の弱まった世界的意識(特に日本)を変えていくのも、マイクロソフトの責任だとぼくは思っています。
マイクロソフトはアメリカでの独占禁止法をめぐる裁判や、アプリケーションセキュリティの穴をついたnimda騒動で、非難を浴びています。毀誉褒貶の激しいマイクロソフトは、次期OSウィンドウズXPでIT業界の救世主なれるのでしょうか。いずれにせよ、マイクロソフトが社会的に注目されている会社であることは間違いありませんし、会社の動向が日経などのメディアで頻繁に取上げられる非常にニュース性の高い会社です。また、企業にとっても、マイクロソフト技術を採用することによる、広報的価値の高さも無視できません。この場合、マイクロソフトにとっても、日本における高い広報価値があります。これは、日本ではシステム製品選定の際に、他社の実績・事例が重要視される文化があるためです。このようにして、広報面で両社間にWIN−WINの関係が成立しているのです。最近では、安田火災と新生銀行記事が大きく取り扱われています。安田火災は「業務系システムにウィンドウズを全面採用」と日経本誌に掲載されました。内容は、安田火災が「新システム構造」という将来を見据えた独自ガイドラインを実現したというもので、これは日本企業では初めてのことです。損害保険会社が本業以外の話題で取上げられる最大のケースでしょう。もうひとつの新生銀行については、日経産業新聞に、マイクロソフト製品を大胆に導入していたと取上げられています。「メーンフレームの10分の1の低コストで構築・維持できる」と。システム業界では、しばらく10分の1がキーワードになるかもしれません。